Sonir/Blog/公開日 2026-08-17

左右のスピーカーで周波数特性が違うのはなぜ?測って切り分ける

左右のスピーカーで周波数特性が違うのは、個体差より設置の非対称が原因のことが多い。片側ずつ測って重ねる手順と、左右を入れ替えて原因を確定させる方法。

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nadai
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Sonir. 開発者

右のほうが低域が薄い気がしていた。測ったら100Hz付近で7 dB違った。左右のスピーカーを入れ替えて測り直したら、薄いのはやはり右側だった。悪かったのは箱ではなく、右のスピーカーの後ろの壁までの距離だった。

結論

左右の周波数特性が違う原因は、ほとんどが個体差ではなく設置の非対称にある。特に50〜200Hzは、後ろの壁や側壁までの距離が数十cm違うだけで数dB動く。切り分け方は決まっていて、マイクを固定したまま片側ずつ測って重ね、そのあと左右のスピーカーを物理的に入れ替えてもう一度測る。差がスピーカーについて移動したら個体差、同じ側に残ったら部屋と設置だ。

左だけ・右だけで測った2本の周波数特性 50〜200Hzで割れて中高域で重なるのが典型的な出方。入れ替えテストまでやって原因が決まる

なぜ左右で違うのか

マイクに届くのは、スピーカーから直接来た音と、壁や床で反射して遅れて来た音の合計だ。遅れて来た音は直接音と位相がずれているので、ある周波数では強め合い、別の周波数では打ち消し合う。最初の打ち消しは、境界面までの距離をdとしたときおよそc/(4d)に来る。音速343 m/sを当てると、壁まで50cmなら約172Hz、80cmなら約107Hzだ。

ここが効いてくる。左右のスピーカーで後ろの壁までの距離が50cmと80cmだったとすると、谷の位置が172Hzと107Hzに分かれる。同じスピーカー、同じアンプ、同じ部屋なのに、その帯域では数dBの左右差が当たり前に出る。オーディオ的に「片方だけ低域が薄い」と感じる原因の大半はこれで、箱の中身は関係ない。部屋の定在波も、リスニング位置が部屋の左右中心からずれていれば左右で違う形に乗る。

中高域は事情が違う。300Hzより上では波長が短くなって、部屋の平均的な反射よりも直接音が強く効いてくるので、左右のカーブは普通は重なる。ここが割れているときは、片側だけにある家具や壁、つまり第一反射点の環境が非対称になっている。さらに上、数kHz以上はスピーカーの向きが直接効く。高域は指向性が鋭いので、トー角が左右で数度違うだけでレベルが変わる。

個体差は、一番最初に疑われて一番当たらない。ペアで売られているスピーカーは同じロットの組み合わせで出荷されているし、経年で片側のエッジが劣化しているような場合を除けば、部屋の非対称のほうが桁違いに大きい。だから入れ替えテストを先にやる。

手順

  1. 三脚でマイクをリスニング位置・耳の高さに据える。以後マイクは動かさない
  2. アンプのバランスを左いっぱいに振る (または右のケーブルを外す) → 左だけでスイープ。録音ピークは-6〜-12 dBFS
  3. バランスを右いっぱいへ振り替え、音量つまみもアプリの設定も触らずに同じスイープ長で右を測る
  4. 「測定を比べる」で2本を重ね、割れている帯域を見る
  5. 左右のスピーカーを物理的に入れ替え、マイクを動かさずに2と3をやり直す

5がこの手順の核心で、ここを省くと「左右で違う」という観察が「なぜ違うか」に変わらない。箱を持ち上げて左右を入れ替えるのは面倒だが、20分で終わるうえに結論が確定する。ケーブルの左右も一緒に入れ替えると、ついでにケーブルの疑いも消える。

Sonirの「測定を比べる」は2本のカーブを重ねてA−Bの差分を主役に出す。左と右は同じマイク・同じ校正・同じ位置で測っているので、条件不一致の警告は出ないはずだ。出たなら、間の操作でマイクプロファイルか校正の状態が変わっている。

帯域ごとの読み方

帯域左右差の出方主な原因打ち手
20〜50Hz数dBは普通部屋のモードとリスニング位置の非対称位置を動かす / ルームEQ
50〜200Hz大きい。5 dB超もある壁・床までの距離差による打ち消し左右で壁からの距離を揃える
200Hz〜2kHz揃うのが普通割れるなら片側の家具・反射面第一反射点を左右そろえて処理
2kHz以上向きで動くトー角の差・近接反射面左右の角度を揃える

50〜200Hzの左右差を見つけたら、まずメジャーを持って左右のスピーカーから後ろの壁・側壁までの距離を測ってほしい。数字が違っていれば話は早い。左右で揃えるだけで、EQを一本も使わずに差が縮む。

周波数特性が揃っても定位は揃わない

左右のカーブが重なったからといって、音像がセンターに立つとは限らない。周波数特性は「どの帯域がどれだけの量で届いたか」しか見ていなくて、「いつ届いたか」を見ていないからだ。左右の到達時間が0.5 ms違えば音像は片側に寄るが、周波数特性のグラフは何も言わない。

Sonirの測定タブにはこのためのImagingがある。左スイープ→無音→右スイープを1本のステレオ信号として流し、1本のマイクで連続録音して、左右の到達時間差 (LTE)・相互相関・群遅延差・位相差を生値で出す。統合スコアにはしていない。左右対称性は測定条件で数字が動くので、総合点にまとめると何を見ているのか分からなくなるからだ。周波数特性の左右差は量の話、Imagingはタイミングの話で、両方見て初めて左右が揃う。

よくある失敗

両方鳴らしたまま測る。これでは空間で合成された1本しか出ない。左右差は合成の中に消える。バランスつまみが中央にないことを毎回確認する。

測定の間にマイクを動かす。三脚を蹴った、片側を測るために体をずらした。低域は数十cmの移動で数dB動くので、それだけで左右差の値が変わる。左右を測り終わるまでマイクは触らない。

入れ替えを省いて個体差だと決める。そして片側だけEQで持ち上げる。原因が壁からの距離差なら、その補正はリスニング位置を10cm動かした瞬間に過剰になる。Sonirのルームイコライザーが補正を20〜300Hzに絞ってブーストを1本あたり+6 dBまでに制限しているのは、この不確かさが前提にあるからだ。

余談だが、左だけ・右だけで測った2本は空気録音のほうでも使い道がある。片側の録音だけ妙にこもって聴こえるとき、測定カーブと突き合わせると耳の印象がどの帯域の話だったのか分かる。

冒頭の右側は、壁までの距離を左と揃えたら100Hzの差が7 dBから2 dBまで縮んだ。ただ、揃えるためにスピーカーを部屋の中心寄りへ20cm出したので、今度は椅子を引くスペースが減った。測って原因が分かることと、その部屋で対策できることは、残念ながら別の話だ。

よくある質問

左右のスピーカーで周波数特性が違うのは故障ですか?

ほとんどの場合は違います。左右の壁までの距離が数十cm違うだけで50〜200Hzの特性は数dB動くので、正常な機材でも左右差は出ます。故障や個体差を疑うのは、左右のスピーカーを入れ替えても差が同じスピーカーについてくることを確認してからにしてください。

左右差は何dBまでなら許容範囲ですか?

部屋で測る限り低域の左右差はゼロにはなりません。目安として200Hz以下は数dBの差が普通に出ます。問題にすべきは200Hz〜2kHzで、この帯域が大きく割れているときは家具や壁など反射環境の非対称が効いています。数値より、入れ替えテストで原因が確定するかどうかを重視してください。

左右を同時に鳴らして測ればいいのでは?

同時に鳴らすと2本の音が空間で合成された1本のカーブしか出ません。左右差はその合成の中に埋もれて読めなくなります。片側ずつ鳴らして2本のカーブを作るのが、左右差を見る唯一の方法です。

片方の低域が薄いのでEQで持ち上げてもいいですか?

原因が壁からの距離差による打ち消しなら、EQで持ち上げても効率が悪く、位置を少し変えるだけで過剰になります。まず壁までの距離を左右で揃えるほうが確実です。配置で詰めきれない残りをEQで埋める、という順番を守ってください。

高域だけ左右で違います。何を疑えばいいですか?

スピーカーの向き(トー角)と、片側だけにある近接反射面です。高域は指向性が鋭いので、左右の角度が数度違うだけで数kHz以上の量が変わります。片側だけ壁やディスプレイが近い場合も同じ帯域に出ます。左右の角度を揃えて測り直すと切り分けられます。

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