Sonir/Blog/公開日 2026-08-16

スピーカーの音?部屋の音?測定結果を切り分ける2回測定の手順

周波数特性の凸凹がスピーカー由来か部屋由来かは、距離を変えて2回測れば切り分けられる。近接とリスニング位置の差分の読み方、250〜300Hzを境にした判断まで。

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nadai
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Sonir. 開発者

63Hzに-14 dBの谷があった。スピーカーを買い替えようかと思った。マイクを50cmまで寄せて測り直したら、その谷は消えていた。

結論

同じスピーカーを2つの距離で測って、2本のカーブを重ねる。リスニング位置 (2〜3m) と近接 (30〜50cm) の差が大きい帯域が部屋の寄与、2本がほぼ重なる帯域がスピーカーの素性。境目はおおむね250〜300Hz付近に来る。それより下の巨大な山と谷は、まず部屋を疑う。

近接とリスニング位置の2本のカーブ 2本が離れる帯域が部屋、重なる帯域がスピーカー。境目の目安は250〜300Hz

なぜ距離を変えると切り分けられるのか

マイクに届く音は、スピーカーから直進してきた直接音と、部屋を反射して遅れて届く音の合計だ。この2つは距離への反応がまるで違う。

直接音は距離の二乗で減衰する。距離を半分にすれば6 dB上がる。一方、部屋を何度も反射して混ざった音は、部屋の中のどこでもだいたい同じ強さで存在している。だから近づくほど直接音の比率が上がり、部屋の比率が下がる。2〜3mから30〜50cmへ寄せるというのは、部屋の寄与を意図的に薄めた2本目を作る操作にほかならない。

その2本を重ねたとき、形が変わらなかった凸凹は「部屋の量が変わっても変わらなかった」ということだから、スピーカー側に属する。逆に大きく形が変わった帯域は部屋の寄与が支配的だった帯域だ。1本のカーブを睨んでいても絶対に出てこない情報が、2本目を撮った瞬間に出てくる。

ただ、この手が効くのは中高域までだ。低域はそもそも波長が長い。63Hzの波長は約5.4mあって、2〜3mを50cmに縮めたところで波長に対しては大した移動ではない。定在波の腹と節は部屋全体に立っているので、近づいても逃げられない。低域については距離ではなく位置を変える。前後左右に30〜50cmずらして測り、それでも同じ場所に残る谷だけを本物として扱う。

手順

  1. リスニング位置・耳の高さで1回目。録音ピークは-6〜-12 dBFSに合わせる
  2. 再生側の音量つまみとアプリの設定を一切触らず、マイクだけを正面軸上30〜50cmへ寄せる
  3. まったく同じスイープ長で2回目。近距離はレベルが上がるので、0 dBFSに張り付いていないかだけ見る
  4. 「測定を比べる」で2本を重ね、差が大きい帯域と重なる帯域を分ける
  5. 疑わしい谷が低域に残ったら、リスニング位置を30〜50cmずらしてもう1回

三脚は要る。手持ちで2回測ると、距離の差に体の反射と位置のばらつきが乗って、何を比べているのか分からなくなる。マイクの向きも2回で揃える。詳しくはマイクをどこに置くかのほうで書いた。

Sonirの「測定を比べる」は2本のカーブを重ねてA−Bの差分を主役に出す。校正状態や測定条件が揃っていない測定を重ねようとすると警告は出るが、比較自体はブロックしない。今回のように距離をわざと変えた2本は「条件が揃っていない」に当たるので、警告が出るのが正常だ。

読み方の目安

帯域2本の関係読み打ち手
20〜250Hz大きく違う部屋の定在波が支配的位置を動かす / ルームEQ
250〜300Hz境目どちらもあり得る位置をずらして再測定
300Hz〜3kHzほぼ重なるスピーカーの素性機材側で対処
3kHz以上重なるが近接のほうが素直スピーカー+設置 (トー角・反射)向きと近接反射面

高域が2本でズレたときは、機材ではなく机の天板やディスプレイの近接反射を疑ったほうが早い。近接測定では反射面から離れているので消え、リスニング位置では乗る、という出方をする。

よくある失敗

再生音量を変えてしまう。これが一番多い。近接で音が大きくて驚いて絞ると、差分に音量差がまるごと乗る。差分カーブが全帯域で平行移動していたら、まずこれ。

近接測定を「スピーカー単体の特性」だと思う。違う。30cmでも部屋は残っているし、逆にユニット間の距離差という近接固有の誤差が入る。近接測定は真値ではなく、あくまで比較対象の2本目だ。

1回の差分でEQをかける。低域のディップは位置で動く。動く谷をEQでブーストすると、別の位置では過剰に持ち上がる。SonirのルームEQが補正の主戦場を20〜300Hzに絞ってブーストを1本あたり+6 dBまでに制限しているのは、この不確かさを前提にしているからだ。

余談だが、この2回測定は空気録音のほうでも同じ形で効く。録音が部屋くさいと感じたら、マイクを寄せて録り直した1本と比べると、どこまでが部屋だったかが耳で分かる。空気録音に部屋の音がどれだけ入るかはそちらの話。

冒頭の63Hzの谷は、椅子を50cm前に出したら-4 dBまで浅くなった。スピーカーは無罪だった。ただ、じゃあ椅子をそこに置けばいいのかというと、そこは机の位置的に座れない。測って分かったからといって直せるとは限らない、というのがこの手の測定の正直なところだ。

よくある質問

測定した周波数特性はスピーカーの特性ですか?

いいえ。部屋の中で測ったカーブは「スピーカー+部屋+マイク」の合成です。特に250〜300Hz以下は部屋の定在波が支配的で、スピーカーを別の部屋に持っていけば形が変わります。切り分けるには距離を変えて2回測り、差分を見てください。

何cmまで近づければスピーカーの音だと言えますか?

30〜50cmが実用的な目安です。近づくほど直接音の比率が上がるので部屋の寄与は下がりますが、単体特性にはなりません。逆に10cm程度まで寄せるとウーファーとツイーターまでの距離差が効いて、実際の聴取位置では起きないクロスオーバー付近の凸凹が出ます。

低域も切り分けられますか?

距離を詰めても低域の部屋の影響は完全には落ちません。低い周波数ほど波長が長く、30cmという距離が波長に対して短すぎるからです。低域については「近接でも残るか」ではなく「マイク位置を変えても残るか」で判定してください。

2回の測定で再生音量を変えてもいいですか?

変えないでください。差分の意味が壊れます。近距離で録音レベルが上がってクリップしそうなときだけ、両方を測り直す前提で下げてください。片方だけ音量を変えた2本を重ねると、部屋の寄与と音量差の区別がつきません。

差分が全帯域でほぼゼロでした。何かおかしいですか?

距離が十分に変わっていない可能性が高いです。2〜3mから30〜50cmへ寄せると、中高域はともかく低域の凸凹は必ず動きます。まったく動かないなら、スイープが再生されている経路とマイクの位置関係を疑ってください。片方をヘッドホン出力で測っていた、といった取り違えが典型です。

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