Sonir/Blog/公開日 2026-08-13

スピーカーの周波数特性をスマホで測定する完全ガイド

スピーカーの周波数特性をスマホで測る方法と、その測定値の正しい読み方。出てくるカーブが「スピーカー+部屋」になる理由、機材側に寄せる測り方、左右を別々に測る手順まで。

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nadai
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Sonir. 開発者

新しいスピーカーを買って、スマホで周波数特性を測ってみたら100Hz付近が+9 dB盛り上がっていた。カタログには±3 dBと書いてある。壊れているのか、カタログが嘘なのか。どちらでもありません。測っているものが違う。

結論

スマホでスイープを1本流せば、スピーカーの周波数特性は測れます。ただし出てくるカーブは**スピーカー単体の特性ではなく「スピーカー+部屋+マイク」**の合成です。カタログの無響室特性と一致することはないし、それは測定が間違っているからではない。この前提さえ押さえれば、スマホの測定は十分に実用になります。効くのは絶対値ではなく差分で、前後の差・左右の差・機材Aと機材Bの差を読むこと。低域ほど部屋、高域ほどスピーカーが支配的、という重み付けを頭に入れて読む。

何が測れて、何が測れないか

まず線引きから。

測れる測れない
帯域ごとの凸凹の形 (相対カーブ)無響室相当のスピーカー単体特性
設置や機材を変えた前後の差校正なしでの絶対音圧 (dB SPL)
左右スピーカーの応答差・到達時間差部屋の影響を完全に除いた低域特性
部屋の残響 (RT60) やリンギングとの関係ヘッドホン・イヤホンの特性 (Sonirは非対応)

「測れない」の1行目が、この記事のほぼ全部です。メーカーの周波数特性は無響室、あるいはそれに準ずる環境で測ったもの。あなたの部屋には床と壁と天井があり、スピーカーから出た音はそこで反射してマイクに戻ってきます。同じスピーカーでも部屋が変われば測定値は変わる。これは測定の欠陥ではなく、実際にあなたが聴いている音がそうなっている、という話です。

出てくるカーブが「スピーカー+部屋」になる理由

マイクに届く音は3つに分けられます。スピーカーから直進してきた直接音、壁や床で1〜2回跳ね返って数ミリ秒遅れて届く初期反射、部屋中を何度も反射して減衰していく残響。周波数特性はこの全部を足した結果です。

マイクに届く音の内訳とゲート窓のトレードオフ 直接音・初期反射・残響。窓を短く切るほど部屋は落とせるが、測れる下限周波数は上がる

直接音だけを取り出せれば、それはスピーカーに近い特性になります。実際、インパルス応答の頭だけを時間で切り取れば反射を落とせる。これは擬似無響 (quasi-anechoic) と呼ばれる古典的な手法で、Sonirも内部では使っています。イメージング解析では直接音の前2ms・後6msの窓に切ってから左右を比べるし、群遅延の解析では前2ms・後16msで切っている。残響のコムフィルタで位相が暴れるのを避けるためです。

問題は、この手が低域で使えないこと。時間窓を6ミリ秒に切ると、周波数の分解能はおよそ1÷0.006秒 = 167Hzまで落ちます。つまり167Hzより下は「窓の中に1周期も入っていない」ので測れない。低域の反射を落とすには窓を長く取る必要があり、窓を長く取ると反射が入ってくる。この矛盾は原理的なもので、アプリの実装で解決できる種類の問題ではありません。デスクトップのREWでも、無響室を持たない限り同じ壁に当たります。

だからSonirは、ユーザー向けの周波数特性ではゲートをかけていません。かけると低域が消えるからです。表示しているのはIR全長 (既定で約0.6秒ぶんの尾) から出した、部屋込みのカーブ。これは正直に「部屋込み」と言って読ませるほうが、擬似無響の中途半端なカーブを「スピーカーの特性です」と出すより誠実だと考えています。

境目の目安はシュレーダー周波数です。部屋が個別のモード (定在波) に支配される領域と、反射が十分に混ざる領域の境界で、一般的な部屋なら250〜300Hz付近。ざっくり言えばそれ以下は部屋の話、それ以上はスピーカーの話として読む。低域の巨大な山と谷は、まず部屋を疑ってください。

機材側に寄せる3つの手

部屋を消せないなら、部屋の比率を下げる。実用的なのは3つです。

距離を詰める。直接音は距離の二乗で減衰しますが、残響は部屋のどこでもだいたい同じ強さです。だから近づくほど直接音の比率が上がる。30〜50cmまで寄れば、中高域はかなり機材側のカーブになります。ただし寄りすぎるとウーファーとツイーターまでの距離差が効いて、実際の聴取位置では起きないクロスオーバー付近の凸凹が出る。目的が「この部屋でどう聴こえるか」ならリスニングポジション、「この個体はどんな癖か」なら近距離、と使い分けます。

位置を変えて複数回測る。1点だけで測ると、その点にたまたま出た深いディップを機材の欠陥と誤読します。頭を10cm動かすだけで消える谷は珍しくない。数十cm離れた3点ほどで測って形が共通していれば、それはスピーカーの特性です。位置ごとに動くならそれは部屋。

同じ条件で比べる。機材Aと機材Bを同じ位置・同じ距離・同じ再生レベルで測って差分を取れば、部屋の寄与は両方に共通なのでかなり相殺されます。絶対的なカーブより差分カーブのほうが信用できる、というのはこの理屈です。Sonirの「測定を比べる」は2本のカーブを重ねてA−Bの差分を主役に出すようになっていて、しかも校正状態や条件が揃っていない測定を重ねようとすると警告を出します (比較自体はブロックしません。承知のうえで比べたい場面はあるので)。

測定の手順

実際に測る流れです。

  1. 距離を決める。正面軸上、30〜50cmかリスニングポジション。どちらで測ったかを記録しておく
  2. 録音レベルを合わせる。ピークが-6〜-12 dBFSに入るように再生音量を調整する。クリップは山を潰し、残響を伸ばして見せる。測定が壊れる原因の第1位がこれ
  3. スイープを流す。20Hz〜20kHzの上昇スイープを再生して同時録音。長さは5秒・10秒・20秒から選べます。エアコンや外の騒音があるときは長いほうへ。SNRは音量ではなく時間で稼ぐ
  4. カーブを読む。300Hz〜3kHzを0 dBに正規化した相対表示、1/6オクターブ平滑。凸凹の位置と量を見る
  5. 条件を1つだけ変えて測り直す。距離かマイク位置。2本を重ねれば、動いた凸凹が部屋、動かない凸凹がスピーカー

スイープ測定からRT60・ウォーターフォール・周波数特性までは無料で使えます。オクターブ・1/3オクターブの帯域別解析も、測定同士の重ね描きも無料です。

左右を別々に測る

ステレオで聴いている以上、片方だけの特性が分かっても半分です。左右で違えば定位が寄るし、音像がぼやける。

Sonirのイメージング測定は、左右のスピーカーを同じ上昇スイープで時間をずらして順に鳴らします。同時に別々のスイープ (上昇と下降) を流す設計も検討しましたが、左右で逆フィルタが変わると処理の非対称が形に出るのでやめました。順番に鳴らせば左右は完全に同じ処理を通るし、クロストークもゼロになる。

得られるのは、左右の到達時間差 (µs単位)、左右のIRの相互相関 (0〜1、1に近いほど左右の応答が似ている)、そして帯域別の左右差です。ここに差が出たとき、原因の多くは個体差ではなく設置です。片方だけ壁やコーナーに近い、片方の前に本棚がある、トー角がずれている。左右の測定は、スピーカーの品質検査というより部屋のレイアウト検査だと思ったほうが当たります。

よくある失敗

順に。

カタログ値と一致しないと言う。一致しません。無響室と部屋を比べています。比べるべきは自分の測定同士。

低域の谷を機材のせいにする。80Hzに-15 dBの谷があっても、たいていは定在波のヌルです。マイクを動かすと位置が変わるので判定できます。

クリップに気づかない。録音が振り切れると高域の山が潰れて、なだらかで綺麗なカーブに見えることがある。「思ったよりフラットだ」と喜んだら振り切れていた、というのが一番たちが悪い。

校正なしの絶対値を信じる。スマホの内蔵マイクには固有の癖があり、特に高域と超低域で素直ではありません。相対比較なら癖は両方に乗って相殺されますが、1本のカーブを絶対視するなら校正ファイルが要ります。

ちなみに、測定のたびに値がばらつくと感じたら、まず再生側の音量つまみを疑ってください。ストリーミングアプリのラウドネス正規化が曲ごとに効いていて、測定用のスイープにまで別のゲインが乗っていた、という間抜けなケースを踏んだことがあります。半日溶かしました。

まとめ

  • スマホで測れるのは「スピーカー+部屋+マイク」の合成カーブ。単体特性ではない
  • 時間窓で部屋を落とす擬似無響は、6ms窓で下限がおよそ167Hzになり低域には使えない
  • 目安250〜300Hz (シュレーダー周波数) 以下は部屋、それ以上はスピーカーとして読む
  • 機材側に寄せるには距離を詰める・複数位置で測る・同条件で差分を取る
  • 左右は別々に測れる。差が出たら個体差より設置の非対称を疑う

よくある質問

スマホでスピーカーの周波数特性は正確に測れますか?

凸凹の形は測れますが、それはスピーカー単体の特性ではなく「スピーカー+部屋+マイク」の特性です。相対的な比較 (前後の差、左右の差、機材Aと機材Bの差) には十分使えます。カタログのような無響室特性はスマホでも専用アプリでも部屋の中では測れません。

測定結果はスピーカーの音ですか、部屋の音ですか?

低域ほど部屋、高域ほどスピーカーです。目安となる境目はシュレーダー周波数 (一般的な部屋で250〜300Hz) で、それ以下は部屋の定在波が支配的になります。切り分けたいならマイクをスピーカーに近づけて測り、遠くで測ったカーブと比べます。

スピーカーに近づけて測ればスピーカー単体の特性が出ますか?

近づくほど直接音の比率が上がるので機材側には寄りますが、単体の特性にはなりません。近すぎると今度はユニット間の距離が効いて、実際の聴取位置では起きない凸凹が出ます。30〜50cm程度から始めて、リスニングポジションでの測定と併せて読むのが現実的です。

左右のスピーカーを別々に測れますか?

測れます。Sonirのイメージング測定は左右を同じスイープで時間をずらして順に鳴らし、左右それぞれのIRから到達時間差 (µs) と左右応答の相互相関、帯域別の左右差を出します。片方だけ壁が近いといった設置の非対称はここに出ます。

絶対的な音圧 (dB SPL) は測れますか?

スマホの内蔵マイク単体では出せません。周波数特性は300Hz〜3kHzを0 dBとした相対カーブです。絶対値が要るなら校正マイクと校正ファイル (.txt) を取り込んでください。相対比較が目的なら校正なしでも成立します。

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Sonirで測る

Sonirはスマホで音響測定と比較を完結させるアプリです。本記事のスピーカー測定も、スイープを流して録るだけでIRから周波数特性を出し、左右の応答差まで測れます。測定から帯域別の深掘り、測定同士の重ね描きまで全機能が無料です。

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