13cmウーファーのブックシェルフ2台で20Hzを85 dB出すには、コーンが片側9mmほど動く必要があります。そんなに動くユニットはまず売っていません。低音が物足りない原因を部屋やセッティングに探す前に、音源側の物理で先に上限が決まっていることがあります。その上限は、口径と本数だけで計算できます。
結論
スピーカーの最大音圧は、低域では振動板が動かせる空気の量でほぼ決まります。実効振動板面積と片側ストロークの積が体積変位で、これが音圧の上限を握る。同じ音圧を保ったまま周波数を1オクターブ下げると、必要な体積変位は4倍(+12 dB相当)になります。低域だけが先に頭打ちになるのはこのためです。判定に要る入力は口径と本数だけで、カタログに載っていないXmaxは要りません。
上限を決めているのは面積ではなく体積
体積変位とは、振動板が1回の動きで押しのける空気の体積です。実効振動板面積(エッジを除いた、実際に空気を押す面の面積)に片側ストロークを掛けたもので、単位はcm³。
低い周波数では、スピーカーは音を「作る」というより空気を前後に押しています。同じ音圧を出すのに要る体積変位は、周波数の2乗に反比例する。式で書くとこうです。
SPL_max(f) = 20·log10(Vd) + 40·log10(f) + 108.5 [半空間・1m・正弦波rms、Vdはm³]
逆に解けば、目標の音圧から必要な体積変位が出ます。
Vd_req(f) = 10^((SPL_target − 40·log10(f) − 108.5) / 20)
x_req(f) = Vd_req(f) / Sd_total
面積を増やしても、ストロークを増やしても、掛け算の結果が同じなら音圧は同じ。20cmを1本と13cmを2本強がだいたい釣り合うのは、この掛け算のせいです。
1オクターブ下げるごとに要求は4倍
式の40·log10(f)が全部です。周波数が半分になると40·log10(2) = 12.0 dBぶん不利になり、同じ音圧を保つには体積変位が4倍要る。
13cmウーファー2台で85 dBを保つときの片側ストローク。100Hzでは0.4mmで足りるが、25Hzでは6.2mm要る
100Hzで0.4mmしか動かなくていいものが、50Hzで1.5mm、25Hzで6.2mm。ここが「低音が出ない」の正体で、アンプの出力でもエージング不足でもありません。一般的なブックシェルフのウーファーが片側2〜3mmしか動けないなら、40Hz付近が現実的な下限になります。
余談ですが、これは低域用ユニットが不格好に見える理由でもあります。深いストロークを取るためのエッジとダンパー、それを支えるフレーム。見た目は設計の結果です。
そして厄介なことに、この4倍は「もう少し頑張れば届く」量ではありません。10Hz下げる話ではなく、オクターブで殴られる。32Hzを鳴らしたいという要求は、64Hzのときの4倍の体積変位を要求します。ここを理解しないまま低域を伸ばそうとすると、EQで持ち上げてユニットを底付きさせるという最悪の手に出ることになります。
口径別・必要ストロークの目安
ステレオ2台、1台あたりウーファー1本、1mで85 dB(正弦波)を出すときに要る片側ストロークです。振動板の実効直径は公称口径の0.75〜0.85倍が相場なので、1つの値ではなく幅で出しています。
| 公称口径 | 20Hz | 40Hz | 63Hz | 100Hz |
|---|---|---|---|---|
| 10cm | 14.7〜18.9mm | 3.7〜4.7mm | 1.5〜1.9mm | 0.6〜0.8mm |
| 13cm | 8.8〜10.6mm | 2.2〜2.7mm | 0.9〜1.1mm | 0.4mm |
| 16cm | 5.8〜7.4mm | 1.5〜1.8mm | 0.6〜0.7mm | 0.2〜0.3mm |
| 20cm | 3.7〜4.4mm | 0.9〜1.1mm | 0.4mm | 0.1〜0.2mm |
| 25cm | 2.3〜2.7mm | 0.6〜0.7mm | 0.2〜0.3mm | 0.1mm |
| 30cm | 1.6〜1.8mm | 0.4〜0.5mm | 0.2mm | 0.1mm |
参考までに実効振動板面積の目安も置きます。13cmで79〜95cm²、20cmで189〜227cm²、25cmで314〜363cm²、30cmで452〜531cm²。口径の数字は直径なので、面積は2乗で効きます。13cmから25cmへは口径で約1.9倍ですが、面積では約3.8倍です。
表を縦に読むと、20Hzがどれだけ非現実的かが分かります。30cmウーファーですら1.6mm、13cmなら9mm超。市販のサブウーファーが25cm以上の口径で、しかも異様に深いストロークを持っているのは、この列を満たすためです。
Xmaxを聞かないほうが答えが出る
この手の計算がうまくいかない理由はひとつで、入力に要る数字がカタログに載っていないことです。実効振動板面積もXmax(直線動作範囲の片側振幅)も、コンシューマー向けスピーカーの仕様表にはまず出てきません。
出てこない数字を入力欄にすると何が起きるか。ユーザーは適当な推定値を入れ、計算はもっともらしい嘘を返します。「あなたのスピーカーは38Hzまで103 dB出せます」という数字が、根拠のない仮定から出てくる。
だから順方向には解きません。問いを逆にします。
「このスピーカーは何dB出せるか」ではなく 「何dB出したいか。そのために片側何mm動く必要があるか」
必要な入力は口径と本数だけ。どちらも定規で測れるし、目で数えられます。返ってくるのは必要ストロークという1つの数字で、「うちの13cmが片側9mmも動くわけがない」という判定は持ち主が自分でできます。計算は判定を出さず、判定に要る数字を出す。ブラウザで回せるスピーカー出力計算機もこの方針で作っています。
Xmaxが分かっているなら順方向も出せます。20cmウーファー2台でXmaxが片側5mmなら、40Hzで98〜100 dB、63Hzで106〜108 dB、20Hzでは86〜88 dBまで。ただしその数字を持っている人は、たいてい答えも知っています。
この計算が見ていないもの
変位の限界しか見ていません。実機はもっと早く頭打ちになります。
バスレフのポート共振より下が最初に効きます。ポートの共振周波数を下回るとコーンへの空気の支えが抜け、同じ入力で振幅が跳ね上がる。密閉箱なら素直に減っていく帯域で、バスレフ箱はコーンが暴れます。表の値は、この帯域では楽観側に外れています。
ポートの風切りも限界になります。ポート内の空気速度が17 m/sを超えたあたりから圧縮と乱流のノイズが乗り始め、25 m/sが実質の限界です。
熱は連続再生で効きます。ボイスコイルが温まると抵抗が上がり、同じ入力に対する出力が2〜3 dB下がる。測定の1発目と5分後で数字が違うのはたいていこれです。
クレストファクタの読み違えは最も多い失敗です。上の計算は連続正弦波のレベルで、音楽は瞬間のピークと平均レベルが12〜20 dB離れています。「平均85 dBで聴きたい」なら計算に入れるべきは97〜105 dB。ここを平均値のまま入れて「余裕じゃないか」と結論するのが定番の間違いです。
そして部屋の利得は入っていません。半空間・1mの値なので、実際の部屋では低域で持ち上がることも、定在波の谷に座っていて落ちることもあります。部屋の影響は計算で足すものではなく、測って足すものです。
手持ちのスピーカーで判定する手順
- 目標の音量と距離を決める。 1mでの正弦波レベルとして置く。音楽の平均85 dBが目標なら計算の目標は97〜105 dB。
- 口径と本数を数える。 低音を受け持つユニットの公称口径、1台あたりの本数、鳴らす台数。振動板の実直径を定規で測れるなら、推定より実測が優先。
- 必要な片側ストロークを出す。 上の表か計算機で、40Hzと100Hzの2点を見る。傾向は2点あれば分かります。
- 実機の可動量と突き合わせる。 ブックシェルフのウーファーで片側2〜3mm、専用サブウーファーで10mm以上が目安。
- 足りないなら詰め先を選ぶ。 手は3つしかありません。音量を下げる、下端を切る、面積を増やす(口径を上げるか本数を増やす)。
- 測って答え合わせをする。 Sonirでスイープを1本録れば、低域が実際にどこから落ちているかが周波数特性に出ます。
計算と実測は必ずずれます。ずれ方に意味があるので、ずれたら箱か部屋を疑う順番になります。
まとめ
- スピーカーの低域の音圧上限は、実効振動板面積と片側ストロークの積(体積変位)で決まる
- 周波数を1オクターブ下げると、同じ音圧に要る体積変位は4倍(+12 dB相当)
- 13cmウーファー2台・1mで85 dBなら、必要な片側ストロークは100Hzで0.4mm、40Hzで2.2〜2.7mm、20Hzで8.8〜10.6mm
- 体積変位が2倍になれば音圧は+6 dB。本数を倍にするのと面積を倍にするのは等価
- 音楽の平均レベルをそのまま目標にしない。クレストファクタ12〜20 dBぶん上を計算に入れる
- 変位以外の制限(ポートのアンロードと風切り、熱、アンプ)と部屋の利得は、この計算に入っていない
よくある質問
Xmaxが分からないと最大音圧は計算できませんか?
問いを逆に解けば要りません。「何dB出せるか」ではなく「何dB出したいか、そのために片側何mm動く必要があるか」を計算すれば、入力は口径と本数だけで済みます。必要ストロークが出れば、そのユニットがそれだけ動けるかは持ち主が判断できます。
音楽で85 dBを聴きたいとき、計算の目標値はいくつにしますか?
97〜105 dBあたりを見ます。計算は連続正弦波のレベルで、音楽はクレストファクタ12〜20 dBぶん平均が下だからです。ここを平均値のまま入れると要求を大きく見誤ります。
サブウーファーを2本にすると音圧はどれだけ増えますか?
同じ動きをする振動板が2倍になるので体積変位も2倍、音圧で+6 dBです。口径を1段上げるより本数を倍にするほうが効くこともあり、実効面積の比で直接比べられます。なお、部屋のモードを均す目的で複数本にする話は音量の話とは別物です。
この計算に部屋の利得は入っていますか?
入っていません。半空間で1mの値です。実際の部屋では低域で数dBの利得が乗ることも、定在波の谷で逆に落ちることもあります。部屋の影響は測って足します。
計算より実測のほうが低く出ました。何が違いますか?
この計算は変位の限界しか見ていないためです。ポート共振より下でのコーンの跳ね、ポートの風切り、発熱によるパワーコンプレッション(2〜3 dB)、アンプの出力は含まれていません。実測のほうが常に正しい側です。
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Sonirで測る
Sonirはスマホで音響測定と比較を完結させるアプリです。スイープを1本流せばIRから周波数特性が出るので、計算した下限のあたりで実際にどう落ちているかがそのまま見えます。音量を変えて2回測って重ねれば、頭打ちが始まる音量も掴めます。測定から帯域別の深掘り、測定同士の重ね描きまで全機能が無料です。
App Storeでダウンロード。Android版は近日公開。詳しくは機能ページへ。