UMIK-1を買った翌日にやることは、たいてい付属の.txtをどこに読ませるか探すことです。ここでアプリの候補は一気に絞られます。「校正対応」と書いてあっても中身は同じではないので、何がどこまで効くかで並べます。
結論
- 絶対精度を最優先で、校正まわりを作り込みたいならSignalScope X。UMIK対応が本職で、サブスク
- 買い切り基盤で校正込みの測定を長く使うならAudioTools。老舗で堅い。UIは古い
- 机に向かえるならREWが無料で全部入り。校正の扱いも含めてデスクトップの基準
- スマホで校正を効かせつつ、測定と録音物の比較までやるならSonir。校正ファイルの読み込みを含めて全機能が無料
- SpectrumViewのような表示特化アプリには、そもそも校正ファイルの受け口がない
「校正対応」は2つの別物
先にここを分けないと表が読めません。校正ファイルがやっているのは、独立した2つの仕事です。
左と中央が周波数別の補正カーブ、右が感度のオフセット。形を直すのと高さを合わせるのは別の仕事
ひとつは周波数別の補正カーブ。マイク個体の癖 (高域の持ち上がり、両端のロールオフ) を周波数ごとに打ち消して、特性の形を正します。もうひとつが感度のオフセットで、こちらは全帯域共通の1つのdB値。UMIKのファイル冒頭にあるSens Factorは94 dB SPLの音を入れたときの出力レベルなので、そこから逆算した差分を足すと表示がdBFSからdB SPLになります。
補正後の値は次の足し算です。
補正後 = 実測 + オフセット + 周波数別の補正(f)
形だけ直しても絶対レベルは名乗れないし、オフセットだけ合わせても特性のうねりは残る。アプリによって片方しか持っていないことがあるので、「校正対応」の4文字で判断すると外します。
比較表
価格や対応は変わるので、購入前にストアで確認してください。
| アプリ | 周波数別の補正カーブ | 感度オフセット | 測定範囲 | 課金モデル | プラットフォーム |
|---|---|---|---|---|---|
| SignalScope X | ○ (UMIK対応が強い) | ○ | RT60まで (上位ティア) | サブスク | iOS / Mac |
| AudioTools | ○ | ○ | RT60まで | 買い切り基盤 + 段階IAP | iOS / Mac |
| SoundTools | ○ | ○ | SPL / スペクトル中心 | 無料 + IAP | iOS |
| Decibel X | 前提にしていない | △ | SPL / RTA中心 | 無料 + サブスク/買い切り | iOS / Android |
| SpectrumView | × | × | スペクトル中心 | 安価な買い切り | iOS |
| REW | ○ (UMIK / REW / FRD) | ○ | 定番フルセット | 無料 | Windows / Mac / Linux |
| Sonir | ○ (UMIK / REW / FRD / 汎用) | ○ (基準音源・SPLメーター合わせも) | RT60・周波数特性・ルームEQ | 完全無料 | iPhone / iPad / Android |
各アプリの評価
SignalScope X
校正の作り込みでは頭ひとつ抜けています。UMIK系を挿して測ることを前提に設計されていて、絶対精度をきっちり出したい人の選択肢。上位ティアではインパルス応答や残響時間まで届きます。ワークフローとUIは玄人前提で、課金はサブスク。「まず測定器として信用できるか」を最優先するならここです。
AudioTools
iOS測定アプリの老舗で、校正対応も長い。基盤が買い切り (19.99ドルから) なのが効きますが、必要なモジュールを足していくと段階的なIAPで積み上がります。RT60の専用モジュールもあり、座席ごとの比較もできる。UIは古く、今の感覚だと操作は硬い。それでも測定屋には今なお有力です。
SoundTools
無料 + IAPで校正まで面倒を見る、コスパのいいiOSアプリ。SPLとスペクトルが主戦場で、部屋のインパルス応答からRT60を出す方向には深くありません。校正マイクを挿してSPLをちゃんと出したい、という用途にははまります。
Decibel X / SpectrumView
この2つは校正マイク前提の選択肢ではありません。Decibel XはSPLメーターとリアルタイム表示が本質で、周波数別の補正カーブを読み込む前提の作りではない。SpectrumViewは安価な買い切りでスペクトルを見るためのもので、校正の受け口自体がありません。UMIKを買った人がこの2つを候補に入れる理由は薄い。
REW
デスクトップの基準。無料で、UMIKもREW形式もFRDも読み、RT60も周波数特性もウォーターフォールも出る。校正の観点で言えば、機能で負けている点がない。唯一にして最大の制約はパソコンが要ることです。試聴位置に機材を運んで測るとき、この一点が地味に効きます。
Sonir
スマホ側で校正ファイル (.txt) を読みます。形式はUMIK (miniDSP)・REW・FRD、それに該当しない数値テーブルも汎用として走査するので、区切りがコンマでもタブでも、位相の列があっても吸収します。UMIKのファイルからはSens FactorとSERNOを拾い、94 dB SPL基準の感度をオフセットに変換。補正カーブはlog周波数で補間して当てます。
読み込みは無料の範囲で、外部USBマイクの対応も無料。そのうえでスイープからインパルス応答を取り、RT60・EDT・C50・周波数特性・ウォーターフォールを自動で出します。ルームEQの自動PEQ生成は校正済みマイクでないと走らない作りにしてあります。校正なしで低域の補正値を出すのは、ほとんど当て推量になるからです。
入場券を持っていることと、その先は別
校正ファイル対応は差別化ではなく入場券だと考えています。ガチで測る人はこれが無いアプリを最初から見ない。だから対応の有無で選ぶと、実は候補が4つくらいに絞られたところで判断材料が尽きます。
そこから先を分けるのは、校正して得た精度で何をするかです。SignalScopeとAudioToolsは「正確な数値を出す」ところで完成していて、それはそれで一貫している。REWも同じ思想でデスクトップに全部入っている。Sonirが違うのは、その精度を録音物の比較に持ち込んでいるところです。校正済みマイクで測ったスピーカーAとBの周波数特性を重ねて差分を見る、同条件で録った空気録音を並べる、録音スコアを付ける。測定値で終わらせず「どっちがどう違うのか」まで運ぶ設計になっています。
正直に言うと、絶対精度の一点だけで比べたらSonirが最上位だとは言いません。デスクトップに机ごと構えられるならREWのほうが自由が利くし、iOSで測定器としての素性を突き詰めるならSignalScopeの積み上げは重い。Sonirが効くのは、測った値を持ち歩いて別の測定とぶつけたいときです。
余談ですが、UMIKやEM-01のような測定マイクには0度 (軸上) と90度 (垂直) の2本の校正ファイルが同梱されていることがあります。差が出るのは概ね3〜5 kHz以上で1〜2 dB程度。部屋・定在波・RT60が主役の帯域ではどちらでもほぼ同じです。Sonirは試聴位置で部屋を測る用途を主に置いているので90度を推奨し、1マイクにつきカーブは1本という運用にしています。左右のスピーカーを比べるときも、マイクの位置と向きは固定して鳴らす側だけ変えるのが鉄則なので、両チャンネルとも同じカーブで揃います。
用途別のおすすめ
- 絶対精度を最優先、iOSで測定器として使う: SignalScope X
- 買い切り基盤で長く使う、校正込みの測定屋: AudioTools
- 机に向かえる、無料で全部入り: REW
- SPLを校正して正しく出したいだけ: SoundTools
- スマホで校正を効かせて、測定どうし・録音どうしを比べたい: Sonir
校正マイクを持っている時点で、選択肢は「測定値を出すツール」に寄りがちです。測った後に何と比べるのかを先に決めておくと、入場券の先で迷いません。
よくある質問
校正ファイルを読めるスマホアプリはどれ?
iOSではSignalScope X、AudioTools、SoundToolsが対応します。SonirはiPhone / iPad / Androidで対応し、UMIK (miniDSP)・REW・FRDの各形式と汎用の数値テーブルを読み込みます。読み込みを含め、全機能が無料です。
UMIK-1をスマホに挿すだけで正確に測れる?
挿すだけでは足りません。UMIKは個体ごとに周波数別の補正カーブとSens Factor (94 dB SPL基準の感度) を持っていて、それをアプリに読ませて初めて特性の形と絶対レベルが揃います。ファイルを読ませないUMIKは、素性の良い未校正マイクどまりです。
校正マイクなしでも測る意味はある?
あります。同じ端末・同じ位置で条件を揃えれば、変更の前後差は未校正でも見えます。信用できないのは絶対値と特性の形のほうで、dB SPLを名乗ることと自動PEQの生成には校正が要ります。
0度と90度の校正ファイルはどちらを読ませる?
試聴位置で部屋を測る用途なら90度 (マイクを真上に向ける垂直設置) です。差が出るのは概ね3〜5 kHz以上で1〜2 dB程度なので、部屋と低域が主役の測定ではどちらでもほぼ変わりません。Sonirは1マイクにつき1本の運用で、90度を推奨しています。
関連記事
- 校正マイクなしで周波数特性は信用できる?:校正しない場合に何が言えて何が言えないか
- スマホで周波数特性を測ってルームEQをかける:校正の先にある実測とPEQの手順
- 音響測定アプリ比較:RT60が測れるおすすめアプリの選び方:同じ顔ぶれを測定の幅で並べた版
Sonirで測る
Sonirはスマホで音響測定と比較を完結させるアプリです。UMIKなどの校正ファイル (.txt) を読み込んで補正をかけたうえで、スイープからRT60・周波数特性・ルームEQまで出せます。校正ファイルの読み込みも外部USBマイク対応も、帯域別の深掘りも測定どうしの重ね描きも無料です。
App Storeでダウンロード。Android版は近日公開。詳しくは機能ページへ。