「スピーカーを測りたい」でアプリを探すと、出てくるのは部屋の測定アプリばかりです。手を抜いているわけではなくて、部屋の中でマイクを立てた瞬間に、どのアプリも測っているものは同じになる。スピーカーと部屋の合成です。だから比較すべきは「どれが正確にスピーカーを測れるか」ではなく、「どれがその合成カーブを役に立つ形で読ませてくれるか」になります。
結論
- 机に向かえるならREW。無料で最も自由が利き、スピーカー測定でも基準
- iOSで測定器としての素性を突き詰めるならSignalScope X。校正まわりが本職、サブスク
- 買い切り基盤で長く使いたい測定屋ならAudioTools。堅いがUIは古い
- 音圧とリアルタイム表示だけで足りるならDecibel X。スイープからIRを取る作りではない
- スマホで測って、左右・前後・機材どうしを並べたいならSonir
「スピーカーを測る」で実際に起きていること
方式は大きく2つです。ピンクノイズを流してRTAで帯域バランスを眺めるか、スイープを流して録り、逆畳み込みでインパルス応答 (IR) を取り出すか。
前者は速くて手軽ですが、残るのは表示だけです。後者は1回の測定からIRという1本の信号が残り、そこから周波数特性もRT60もウォーターフォールも派生します。左右の到達時間差のような時間軸の指標も、IRがないと出せません。スピーカーを主語にして測るなら、実質的にIRを取れるかどうかで候補が割れます。
そして、そのIRには部屋が丸ごと入っています。境目の目安はシュレーダー周波数で、一般的な部屋なら250〜300Hz付近。それ以下は定在波が支配的で、低域の巨大な山と谷はまず部屋の話です。この点はどのアプリを選んでも変わりません。詳しくはスマホでスピーカーの周波数特性を測る完全ガイドに書きました。
比較の軸は3つ
原理が共通なので、差が出るのは測った後の扱いです。
- スイープからIRを取れるか。取れないアプリは表示器であって測定器ではない
- 左右を別々に測れるか。ステレオで聴いている以上、片方の特性だけでは半分
- 同じ条件で測り直せるか。設置を変えた前後を比べるとき、条件が揃っていない2本を重ねても何も言えない
3番目が地味に効きます。スピーカー測定でやりたいことの大半は「インシュレーターを替えた」「壁から10cm離した」の前後比較で、そこでは絶対的なカーブの正しさより条件の再現性のほうが結果を左右します。
比較表
価格と対応状況は変わるので、購入前にストアで確認してください。
| アプリ | スイープ→IR | 周波数特性 | 左右の差 | 測定どうしの比較 | 校正ファイル | 課金モデル | プラットフォーム |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| REW | ○ | ○ | △ (2回測って重ねる) | ◎ | ○ | 無料 | Windows / Mac / Linux |
| SignalScope X | ○ (上位ティア) | ○ | × | △ | ◎ (UMIK) | サブスク | iOS / Mac |
| AudioTools | ○ | ○ | × | △ (seat-to-seat) | ○ | 買い切り基盤 + 段階IAP | iOS / Mac |
| Decibel X | 前提にしていない | △ (RTA表示) | × | × | △ | 無料 + サブスク/買い切り | iOS / Android |
| SpectrumView | × | △ (スペクトル表示) | × | × | × | 安価な買い切り | iOS |
| Sonir | ○ | ○ | ◎ (専用の測定) | ◎ | ○ (.txt) | 完全無料 | iPhone / iPad / Android |
各アプリの評価
REW
スピーカー測定でも部屋測定でも、比較の基準はここです。無料で、スイープからIRを取り、周波数特性・RT60・ウォーターフォール・群遅延まで全部出る。校正ファイルも読む。左右差の専用指標こそありませんが、片チャンネルずつ測って重ねれば同じことができます。制約はただ1つ、パソコンが要ること。スピーカーの正面30cmにマイクを立てて、ノートを膝に乗せて測る作業をやったことがあれば、この1点の重さは分かってもらえると思います。
SignalScope X
iOSで測定器としての精度を突き詰める側の選択肢。UMIK系の校正対応が本職で、上位ティアではインパルス応答や残響時間まで届きます。スピーカーの特性を数値として正しく出したい人には強い。一方で、測った結果を並べて差分を読ませる方向の作りではありません。課金はサブスク。
AudioTools
iOS測定アプリの老舗。買い切り基盤に必要なモジュールを足していく形で、RT60も校正も揃います。座席ごとの比較機能があるので、複数位置で測って見比べる用途には近い。UIは古く、今の感覚では操作が硬いのは正直なところです。それでも測定屋の道具としては今なお有力。
Decibel X / SpectrumView
この2つはスピーカー測定の候補ではありません。Decibel Xは音圧レベルとリアルタイム表示が本質で、スイープからIRを取る前提の作りではない。SpectrumViewは安価にスペクトルを見るためのものです。設置を変えて帯域バランスがどう動いたかをざっくり眺める用途なら役に立ちますが、周波数特性を測ったとは言えません。
Sonir
スマホ単体でスイープを流してIRを取り、周波数特性・RT60・EDT・C50・ウォーターフォールを出します。カーブは300Hz〜3kHzを0 dBに正規化した相対表示で、1/6オクターブ平滑。絶対音圧が要るなら校正ファイル (.txt) を読み込みます。
スピーカー測定として効くのは残り2軸のほうです。左右は専用の測定があり、同じ上昇スイープで時間をずらして順に鳴らして、到達時間差 (µs)・左右IRの相互相関・帯域別の左右差を出します。左右で違いが出たとき、原因の多くは個体差ではなく設置の非対称です。片側だけ壁が近い、前に本棚がある、トー角がずれている。
もう1つが条件の再現で、測定には機材プロファイル・校正状態・部屋のタグが紐づきます。条件が揃っていない2本を重ねようとすると警告が出る (比較自体は止めません。承知のうえで見たい場面はあるので)。
用途別のおすすめ
- 机に向かえて、無料で全部やりたい: REW
- iOSで測定器としての精度を最優先: SignalScope X
- 買い切り基盤で長く使う測定屋: AudioTools
- 音圧とリアルタイム表示だけで足りる: Decibel X
- スマホで測って、左右・前後・機材どうしを並べたい: Sonir
正直に言うと、1本のカーブの正確さだけで並べたらSonirが最上位だとは言いません。デスクトップに構えられるならREWのほうが自由が利くし、iOSで測定器としての素性を積み上げるならSignalScopeは重い。Sonirが効くのは、測ったカーブを持ち歩いて別のカーブとぶつけたいときです。
余談ですが、以前スピーカーを1台ずつ測って左右差が3 dBあると騒いだことがあります。原因はスピーカーでもマイクでもなく、測定のあいだにプリアンプのバランスつまみが半目盛りずれていただけでした。機材を疑う前に、まず条件を疑ったほうがいい。それでも同じ間違いをまたやる気がしています。
よくある質問
スピーカー単体の特性を測れるアプリはありますか?
部屋の中で測る限り、どのアプリでも測れません。出てくるのは「スピーカー+部屋+マイク」の合成カーブです。これはアプリの性能差ではなく測定の原理なので、比較で見るべきは単体特性に近いかどうかではなく、差分を読ませる仕組みがあるかどうかです。
ピンクノイズをRTAで見る方法ではだめですか?
帯域バランスの傾向を見るには使えます。ただしRTAは表示しているだけなので、インパルス応答が残らず、残響時間や左右の到達時間差は出せません。スイープを流して逆畳み込みでIRを取る方式なら、同じ1回の測定から周波数特性・RT60・ウォーターフォールがまとめて出ます。
左右のスピーカーを別々に測れるアプリは?
REWは片チャンネルずつ2回測って重ねる運用で対応できます。Sonirはイメージング測定として左右を順に鳴らし、到達時間差 (µs) と左右IRの相互相関、帯域別の左右差を1回の測定で出します。SignalScope XやAudioToolsは測定器としての性格が強く、左右差の専用指標は持っていません。
無料でどこまで測れますか?
パソコンが使えるならREWが無料で全部入りです。スマホ側では、Sonirのスイープ測定と周波数特性・RT60・ウォーターフォールに加えて、帯域別の深掘りも測定どうしの重ね描みも無料で使えます。Decibel XやSoundToolsも無料枠を持ちますが、スイープからIRを取る方向には寄っていません。
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Sonirで測る
Sonirはスマホで音響測定と比較を完結させるアプリです。本記事のスピーカー測定も、スイープを流して録るだけでIRから周波数特性を出し、左右の応答差まで測れます。測定から帯域別の深掘り、測定どうしの重ね描きまで全機能が無料です。
App Storeでダウンロード。Android版は近日公開。詳しくは機能ページへ。