空気録音のためのアプリを探すと、出てくるのは「録るだけ」の録音アプリか「測るだけ」の測定アプリのどちらかです。録った音どうしを揃えて比べる、という肝心の部分は、なぜかどちらにも入っていない。ここでは選択肢を用途別に並べて、どこが埋まっていないかを先に示します。
結論
やりたいことで分かれます。
- 録った音をそのまま作品として公開したいなら、音質の素性で選ぶ。ハンディレコーダか標準の録音アプリで十分
- 機材やセッティングの差を同条件で比べたいならSonir。同梱のリファレンス音源を鳴らして録るので、録音が最初から揃う
- 部屋のRT60や周波数特性だけ知りたいなら測定アプリ。ただし録音物の比較は付いてこない
- ブラウザで録音を並べるだけならWuToolsが無料で成立する。スマホで完結はしない
比較表
「録る」までは全員できます。差が出るのはその後です。
| 選択肢 | 録る | 条件の固定・記録 | 録音の採点 | 部屋の測定 | 録音どうしの比較 | スマホで完結 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| Sonir | ○ 基準音源で | ◎ 自動で残る | ◎ 独自スコア | ◎ RT60・周波数特性 | ◎ 測定重ね + 音色軸 | ○ |
| 標準の録音アプリ | ○ | × | × | × | × | ○ |
| ハンディレコーダ | ◎ 音質 | △ 手作業 | × | × | × | × 別機材 |
| Decibel X | △ 限定 | × | × | × SPL/RTA中心 | × | ○ |
| AudioTools / SignalScope X | ○ | △ | × | ○ | × | ○ iOS |
| WuTools Audio Compare | ○ | × | △ | × | ◎ | × ブラウザ |
| REW | ○ | △ | × | ◎ 定番 | × | × デスクトップ |
表の右から2列目が空気録音の本題で、ここに○が付くのは実質SonirとWuToolsだけ。WuToolsはWebなので、スマホ1台で録って比べるところまで通っているのはいまのところSonirに寄っています。
「録るだけ」では比較にならない理由
ここがアプリ選びの分かれ目なので長めに書きます。
空気録音を2本録って聴き比べるとき、その2本には機材の差以外がたくさん混じっています。スピーカー音量が少し違う。マイクの位置が10cmずれた。録った時間帯が違って暗騒音の床が違う。音源そのものが別の曲だった。この状態で「Aのほうが良い」と言っても、何の差を聞いたのか誰にも分かりません。
いちばんたちが悪いのが音量です。人はわずかに大きい音を「良い音」と感じるので、コンマ数dBの差が「機材が良くなった」という感想にすり替わる。しかもスマホの標準の録音アプリは自動ゲイン(AGC)が効くので、静かな部分で勝手にレベルを持ち上げます。録音ごとにゲインがばらける状態で比較しても、聞いているのはAGCの挙動です。
次に音源。毎回違う曲で録ると、比較の基準そのものが動きます。だからSonirの録音は、同梱のリファレンス音源(約25秒の音楽トラックと定位プローブ)を再生して録る方式に統一しました。端末のスピーカーから鳴らすか、ネットワーク経由で対象のスピーカーに送るかを選べて、どちらでも音源は同じ。音源が固定されると、録音どうしの時間整列も周波数特性の採点も、比較として意味のある形で並びます。
そして条件の記録。距離・機材・部屋を書き留めておかないと、半年後に同じ条件で録り直せません。「あのとき距離は何cmだったか」を覚えていられる人はいない。ここを記憶に頼らせないだけで、比較の再現性はかなり変わります。
ちなみに測定アプリ側が録音物比較をやらないのは、たぶん興味の方向が違うからです。測定屋にとって録音は測定値を出すための中間生成物で、録音そのものを鑑賞したり並べたりする対象ではない。空気録音勢は逆で、録音物が主役。この温度差がそのまま機能の空白になっています。
各選択肢の評価
Sonir
同梱のリファレンス音源を鳴らして録り、録音スコアと周波数特性で読み、部屋はスイープからRT60や周波数特性まで測れる。録音時に機材・距離・部屋タグが一緒に残るので、次回同じ条件を呼び出せます。入力ゲインは固定してAGCを機種ごとに切る作りなので、静かな曲でいきなり飽和する定番のトラブルも起きにくい。比較は「測定を比べる」(客観)と「音色を比べる」(嗜好)に分かれていて、スピーカーや部屋の差は測定の重ね描きで見ます。基本計測も帯域別の深掘りも無料です。弱点は後述するとおり、好きな曲を録る用途を捨てていること。
標準の録音アプリ(ボイスメモなど)
思い立った瞬間に録れる手軽さは最強で、録音の素性も悪くありません。空気録音を始める最初の一歩としては十分。足りないのは条件の記録とゲインの制御で、比較の土台としては弱い。同じ機材の音を残しておく記録用と割り切るなら、これでいい場面は多いです。
ハンディレコーダ(ZOOM・TASCAMなど)
マイクとプリアンプの素性で選ぶなら、スマホの内蔵マイクより有利です。公開用の音を録るならこちらが本命。ただし条件の記録も録音どうしの比較も、パソコンに持っていってから手作業になります。機材が増える代わりに音の質を取る選択で、目的が「作品として公開する」なら理に適っています。
Decibel X
UIはこの中でいちばんモダンで、いま鳴っている音の音圧とスペクトルを見るには気持ちいい。ただ本質はSPLメーターで、録音物を並べて比較する設計ではありません。サブスクへの反発レビューが多いのも知られたところ。空気録音の相棒として入れると噛み合いません。
AudioTools / SignalScope X
測定の素性が堅い老舗勢。校正マイクへの対応が強く、周波数特性を絶対精度で詰めたいならここ。RT60も扱えます。反面、録音物どうしの比較という発想は入っていないので、空気録音の比較には別の道具が要ります。UIとワークフローは玄人前提です。
WuTools Audio Compare / REW
WuToolsはブラウザで録音を並べて比べられて、無料でここまでやるのかという出来。ただしWebなので、現場でスマホだけで完結はしません。REWはデスクトップ測定の定番で、RT60も周波数特性も機能では最強。こちらも部屋を測る道具で、録音物の比較は守備範囲外です。
用途別のおすすめ
- 機材やセッティングの差を同条件で比べたい: Sonir。音源・レベル・条件が揃った状態で録音が並ぶ
- 録った音を作品として公開したい: ハンディレコーダ、または標準の録音アプリ
- 部屋のRT60や周波数特性を知りたい: Sonir(スマホ完結)かREW(デスクトップで最強)
- 絶対精度の校正測定がしたい: SignalScope XかAudioTools
- 手元の音源ファイルを並べて比べたい: WuTools(Web)
Sonirが引き受けないこと
正直に書いておきます。Sonirでは好きな曲を空気録音できません。録音は同梱のリファレンス音源に統一していて、任意の音源を録る機能は2026年6月に外しました。音源が毎回違うと録音どうしの比較が成立しないからで、比較の一貫性のために公開用の自由録音を捨てた、という判断です。
なので「お気に入りの曲をスピーカーで鳴らして録って公開する」のがやりたいことなら、Sonirは選ばなくていい。標準の録音アプリかハンディレコーダのほうが素直です。逆に「機材を変えたら何がどう変わったのか」を確かめたいなら、音源が固定されている点がそのまま効きます。
もうひとつ。絶対的な音圧(dB SPL)はスマホ単体では出せません。校正マイクと校正ファイルが要ります。同じ端末での相対比較なら内蔵マイクで実用になりますが、絶対値を名乗るなら校正は避けて通れない。内蔵マイクの個体差をどこまで補正で埋められるかは、まだ詰め切れていない部分です。
よくある質問
空気録音に一番向いたアプリはどれですか?
目的で変わります。録った音をそのまま公開したいなら音質の素性が良いハンディレコーダか標準の録音アプリ、機材やセッティングの差を同条件で比べたいならSonirです。Sonirは同梱のリファレンス音源を鳴らして録るので、録音どうしが最初から揃った状態で並びます。
スマホの標準の録音アプリでは何が足りませんか?
条件が残らないことと、自動ゲインが効くことです。距離や機材やスピーカー音量が記録されないので次回同じに録れず、AGCが静かな部分を勝手に持ち上げるため録音ごとのゲインがばらけます。比較の土台としてはここが崩れます。
ハンディレコーダとスマホアプリはどちらがいいですか?
音そのものの素性はハンディレコーダが有利です。ただし条件の記録と録音どうしの比較は手作業になります。スマホ側は録音・採点・部屋の測定を1台で回せるのが強みで、比較の回転を上げたいならこちらが向きます。
Sonirで好きな曲を空気録音できますか?
できません。Sonirの録音は同梱のリファレンス音源を再生して録る方式に統一しています。音源が毎回同じでないと録音どうしの比較が成立しないためです。好きな曲を録って公開したい用途は守備範囲外で、そこは標準の録音アプリやハンディレコーダのほうが適しています。
録音レベルはどのくらいを狙えばいいですか?
ピークが-6〜-12 dBFSに収まるレベルです。クリップさせると波形の頭が潰れて比較も測定も崩れ、小さすぎると暗騒音に埋もれます。入力ゲインは固定して録音中に動かしません。
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Sonirで録って比べる
Sonirはスマホで空気録音と音響測定と比較を完結させるアプリです。同梱のリファレンス音源を鳴らして録れば、条件ごとライブラリに残って、録音スコアと測定の重ね描きで比べられます。測定から帯域別の深掘りまで全機能が無料です。
App Storeでダウンロード。Android版は近日公開。詳しくは機能ページへ。