スピーカーを替えたのに思ったほど変わって聞こえない。その原因が機材なのか部屋なのかは、部屋を測れば切り分けられます。専用の測定システムを組まなくても、スマホ1台とスピーカーがあれば部屋の音響はそこそこのところまで測れる。難しいのは機材より、測り方のほうです。
結論
スマホで測れるのは大きく2系統です。今この瞬間の音を見るリアルタイム系 (SPL・RTA) と、部屋そのものの応答を取り出すスイープ→IR系 (RT60・周波数特性・ウォーターフォール)。部屋の音響を本気で知りたいなら後者で、入口はスイープを1本録ること。絶対SPLだけは校正マイクが要りますが、それ以外は内蔵マイクの相対測定で実用になります。
部屋の音響を測るとは
部屋の音響とは、スピーカーから出た音が壁・床・天井で反射しながらリスニングポジションに届くまでの「部屋の色付け」のことです。同じスピーカーでも部屋が変われば聞こえ方は変わる。測定は、その差を印象ではなく数字で押さえる作業です。
測る軸は主に3つ。時間 (音がどれだけ尾を引くか)、周波数 (どの帯域が強いか弱いか)、そして両者の合わせ技 (時間×周波数)。この3軸がそれぞれRT60、周波数特性、ウォーターフォールに対応します。部屋の音響測定の全体像は、結局この3軸をどう取るかに尽きます。
まずSPLとRTA、今の音を見る
いちばん手前にあるのがSPL (音圧レベル) とRTA (リアルタイムアナライザ) です。SPLは音の大きさをdBで表し、A / C / Z (フラット) の重み付けと、Fast (125ms) / Slow (1s) / Impulse (35ms) の時間重みを選べます。RTAは今鳴っている音のスペクトルを1/3〜1/12オクターブでリアルタイムに見るもので、窓関数はHann / Hamming / Blackmanから選べます。
ただSPLとRTAは「今鳴っている音」しか見ません。部屋がその音をどう色付けしているか、応答そのものは分からない。そこを取りに行くのが次のスイープ→IRです。SonirではSPL / RTA / FFTを無料で開放しています。まず手元で音圧と帯域バランスの当たりをつけ、本測定はスイープに進む、という順番が自然です。
スイープ→IRが測定の土台
部屋の応答を丸ごと取り出す方法が、スイープ測定です。流れはこう。スピーカーから上昇チャープ (スイープ) を流し、それを録音し、再生と録音のレイテンシをループバックで補正してから、逆フィルタを畳み込む。これで部屋のインパルス応答 (IR) が手に入ります。
スイープを録って逆フィルタを畳み込むとIRが出る。周波数特性もRT60もウォーターフォールも、すべて同じIRから派生する
IRは部屋の応答のすべてが詰まった1本の信号で、ここから派生する解析は芋づる式に出ます。RT60も周波数特性もウォーターフォールも、もとは同じIR。だから一度スイープを録ってしまえば、あとは見方を変えるだけです。このスイープ→IRをMVPに丸ごと入れているのがSonirの差別化軸で、ここを後回しにする競合に対しての優位がそのまま出ます。
IRから何が出るか
IRが1本取れれば、そこから読めるものは多い。代表的なものを並べます。
| 解析 | 読み取れること |
|---|---|
| 周波数特性 | 帯域ごとの強弱。部屋のピークとディップ |
| RT60 (残響時間) | 音が60 dB減衰するまでの時間。尾の長さ |
| EDT | 初期減衰の傾き。聴感に近い残響 |
| C50 / D50 | 初期50msと以降のエネルギー比。明瞭度 |
| ウォーターフォール | 時間×周波数×レベル。尾を引く帯域 (リンギング) |
| ETC | エネルギー時間特性。反射の到来 |
ブロードバンド (全帯域まとめて1値) のRT60・EDT・C50・ウォーターフォール・周波数特性まではSonirでも無料です。ここからさらにISO 3382準拠のオクターブ帯域 (63 / 125 / 250 / 500 / 1k / 2k / 4k / 8k Hz) や1/3オクターブに割って帯域ごとに掘り下げるのがPro。全帯域で「5〜8 kHzだけ残響が残る」のような結果が出たとき、その帯域を集中して見るための機能です。
測定手順
測り方そのものは短い。
- 測定位置を決める: リスニングポジションにスマホを置き、壁や机から離す。マイクを部屋の中心方向へ向けると初期反射の偏りが減ります。
- 録音レベルを合わせる: スイープを流しながら、録音ピークが -6〜-12 dBFSに収まる音量まで下げる。
- 全帯域スイープを流して録る: 20Hz〜20kHzのスイープを再生して同時録音。短く大音量より、長めで適正音量。
- IRから指標を読む: SonirがスイープからIRを生成し、周波数特性・RT60・ウォーターフォールを算出する。減衰カーブがまっすぐ落ちているか確認する。
- 帯域別に割る: オクターブ帯域別に見て、低域だけ伸びていないかを確認する。
細かい話を1つ。SNRを稼ぐのにいちばん効くのは部屋を静かにすることより、スイープを長くすることです。長いスイープは相関処理で雑音に強く、音量を上げずにS/Nを底上げできる。深夜に静けさを待つより、昼間に長いスイープで測るほうが安定することも多い。
スマホ単体の限界
正直に書くと、スマホ単体には越えられない線があります。
いちばん大きいのは絶対SPL。スマホのマイクは個体差があるので、何dB SPLという絶対値は校正マイクなしには出せません。内蔵マイクの周波数特性も機種ごとにクセがある。ここは校正ファイル (.txt) を読み込めば補正できますが、周波数特性を詰めたいなら校正は事実上の前提です。
逆に、絶対値を必要としない測定はスマホと相性がいい。RT60は時間方向の指標なのでマイク感度がずれても傾きは出るし、同じ端末で測って比べる相対比較なら周波数特性も十分使えます。要は「同じ条件で測って比べる」に寄せれば、スマホの弱点はほとんど効きません。
もう1つ忘れがちなのが、測定にはスピーカーと再生系の特性も乗ること。部屋だけを見たいなら、再生系は固定して測るのが鉄則です。そして全部の前提として、録音がクリップしていれば何を測っても壊れます。録音ピークは -6〜-12 dBFS、これだけは外さない。
まとめ
- 部屋の音響は時間・周波数・その合わせ技の3軸。RT60・周波数特性・ウォーターフォールが対応する
- SPL / RTAは今の音、スイープ→IRは部屋の応答そのもの。本気で測るなら後者
- IRが1本取れれば、RT60・周波数特性・ウォーターフォール・C50まで芋づる式に出る
- 絶対SPLは校正マイクが要る。それ以外は内蔵マイクの相対測定で実用
- 録音ピークは -6〜-12 dBFS、SNRはスイープの長さで稼ぐ。ここを外すと全部崩れる
よくある質問
スマホだけで部屋の音響は測れますか?
相対測定なら実用的に測れます。スイープを1本録ればIRが取れ、そこからRT60・周波数特性・ウォーターフォールまで出ます。絶対SPLだけは校正マイクが必要です。
SPLメーターアプリと何が違いますか?
SPLメーターは今鳴っている音の大きさを見るだけで、部屋がその音をどう色付けしているかは測れません。スイープ→IRはその応答そのものを取りに行きます。Sonirは後者の基本計測まで無料です。
校正マイクは必須ですか?
周波数特性を絶対精度で詰めたいなら要ります。RT60や、同じ端末で測って比べる相対比較なら内蔵マイクで十分実用です。校正ファイル (.txt) を読み込めば内蔵マイクの特性もある程度補正できます。
測定の録音レベルはどれくらいを狙いますか?
録音ピークで -6〜-12 dBFS。クリップは測定値を壊す最大の原因です。S/Nが欲しいときは音量ではなくスイープの長さで稼ぎます。
どの解析を最初に見ればいいですか?
まず周波数特性とRT60。部屋の不満はたいてい低域の暴れ (ピークと残響) から来るので、低域がどう出ているかを最初に見ると当たりが早いです。
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Sonirで測る
Sonirはスマホで音響測定と比較を完結させるアプリです。本記事の部屋の音響測定も、スイープを流して録るだけでIRから周波数特性・RT60・ウォーターフォールまで自動で算出します。基本計測は無料、帯域別の深掘りはPro。
iOS / Android、近日公開。詳しくは機能ページへ。