Sonir/Blog/公開日 2026-06-11

スマホでRT60 (残響時間) を測る完全ガイド

RT60 (残響時間) をスマホで測る完全ガイド。定義からスイープ→IR→シュレーダー積分での算出、信頼できる値を出す録音レベルとSNRの勘所まで解説する。

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nadai
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Sonir. 開発者

RT60が2秒を超えて出たとき、まず疑うのは部屋ではなく録音レベルです。クリップした1回の測定が、ふつうに整った部屋を「お風呂」に見せてしまう。専用の計測機器がなくても、スマホのスイープ測定からそれなりに信頼できるRT60は出せます。難しいのは測定そのものより、値が崩れるポイントを外さないことです。

結論

スマホでもRT60は実用的な精度で測れます。鍵は2つだけ。録音ピークを -6〜-12 dBFSに収めることと、SNRを音量ではなくスイープの長さで稼ぐこと。この2点を守れば、測るたびに値が暴れる現象のほとんどは消えます。

RT60とは

RT60 (残響時間) とは、室内で音が鳴り止んでから60 dB減衰するまでの時間です。定義はこれで終わりですが、実測では60 dBぶんをまっすぐ測り切れることはまずありません。暗騒音に埋もれる前の傾き、たとえば -5〜-35 dB (T30) や -5〜-25 dB (T20) の区間から直線を引き、その傾きを60 dBぶんに外挿します。

体感で言えば、スピーカーの「ボワつき」や録音物の「お風呂っぽさ」の正体はだいたいここにあります。RT60が長い部屋では音の立ち下がりが鈍り、低音が尾を引く。短すぎる部屋はデッドで、音がやせて聞こえる。だからRT60は「いくつだったか」より「どの帯域が伸びているか」のほうが効きます。

スマホでどこまで測れるか

スマホでのRT60測定は、専用機材の縮小版というより別ルートです。基本の流れは、スピーカーからスイープ (上昇チャープ) を流し、それを録音し、逆フィルタを畳み込んで部屋のインパルス応答 (IR) を取り出す。IRが取れれば、そこからRT60・EDT・C50・周波数特性・ウォーターフォールまで一通り計算できます。RT60はそのIRをシュレーダー積分にかけ、できた減衰カーブの傾きから読みます。

スイープからRT60を出す信号フロー スイープ → IR → シュレーダー積分 → RT60。録音レベルが崩れると右下の減衰カーブの傾きが寝て、値が伸びる

正直に言うと、スマホ単体には限界があります。絶対SPLはスマホのマイク個体差があるので校正マイクなしには出せませんし、内蔵マイクの周波数特性も機種ごとにクセがある。ただRT60は「室内で音がどれだけ尾を引くか」を測る時間方向の指標なので、マイクの絶対感度がずれていても傾きは出ます。ここがスマホと相性のいいところです。SonirがRT60をMVPのど真ん中に置いているのも同じ理由で、空気録音と音響測定を同じ端末でつなげられる。

校正ファイル (.txt) を読み込めばマイク特性を補正できます。周波数特性まで詰めたいなら校正は要りますが、RT60を見るだけなら内蔵マイクでも相対比較として十分使えます。

RT60の目安

「自分の部屋のRT60は良い値なのか」は最初に気になるところです。中域 (500Hz〜1kHz付近) を基準にした、ざっくりした目安が次の表です。部屋の容積で最適値は動くので、ピンポイントの数字より幅で捉えてください。

用途RT60の目安 (中域)症状
録音 / ボーカルブース0.2〜0.3秒長いと録り音に部屋が乗る
ホームシアター0.3〜0.4秒長いとセリフが不明瞭になる
リスニングルーム0.3〜0.5秒長いと低音がボワつく
未処理のリビング0.5〜0.8秒フラッターやブーミングが出やすい

数字そのものより、帯域ごとのばらつきを見るほうが実りがあります。ブロードバンドの1値が0.4秒に見えても、オクターブ帯域別に割ると125Hzだけ0.9秒、というのはよくある。平均値が低域の伸びを隠すからです。SonirではISO 3382準拠のオクターブ帯域 (63 / 125 / 250 / 500 / 1k / 2k / 4k / 8k Hz) でRT60を割って見られます (帯域別解析はPro)。

測定手順

ここからは実際の測り方です。手順自体は短い。

  1. 測定位置を決める: リスニングポジションにスマホを置き、壁や机から離す。マイクを部屋の中心方向へ向けると初期反射の偏りが減ります。
  2. 録音レベルを合わせる: スイープを流しながら、録音ピークが -6〜-12 dBFSに収まる音量まで下げる。
  3. 全帯域スイープを流して録る: 20Hz〜20kHzのスイープを再生して同時録音。短く大音量より、長めで適正音量。
  4. IRからRT60を読む: SonirがスイープからIRを生成し、RT60 / EDT / C50を算出。減衰カーブがまっすぐ落ちているか確認する。
  5. 帯域別に見る: オクターブ帯域別に割って、低域だけ伸びていないかを確認する。

余談ですが、SNRを稼ぐのにいちばん効くのは部屋を静かにすることより、スイープを長くすることです。長いスイープは相関処理で雑音に強く、音量を上げずにS/Nを底上げできます。深夜にエアコンを止めて測るより、昼間に長いスイープで測るほうが安定することも多い。

RT60が壊れる最大の原因はクリップ

ここが本題です。RT60がおかしいと相談される測定の大半は、部屋の問題ではなく録音がクリップしています。

RT60は減衰の「傾き」から求めます。スイープ録音がクリップすると、波形のピークが頭打ちになり、IRの立ち上がり付近のエネルギーが本来より小さく記録される。その結果、シュレーダー積分でできる減衰カーブの頭がつぶれ、傾きが寝てしまう。傾きが寝れば60 dBぶんを外挿したときの時間が伸びるので、実際より長いRT60が出ます。ひどいときは回帰がまともに引けず、値がNaNに近い壊れ方をする。

やっかいなのは、これが「良かれと思った操作」で起きることです。「大きく録ったほうがS/Nが良いはず」と音量を上げる。すると一番エネルギーの大きいスイープの中域でクリップする。S/Nを上げようとした行為が、そのままRT60を壊す。Sonir開発チームでも、スイープランナーの実装初期に録音ピークが0 dBFSに張り付いてRT60がNaNになる事故を踏んでいて、原因が部屋でないと気づくまでに時間を溶かしました。

対策は単純で、録音ピークを -6〜-12 dBFSに収める。それだけ。S/Nが欲しいなら音量ではなくスイープの長さで稼ぐ。クリップ手前まで音量を下げて、足りないぶんはスイープを長くする。この順番を逆にしないことが、安定したRT60への最短ルートです。

まとめ

  • RT60とは、室内で音が鳴り止んでから60 dB減衰するまでの時間。実測は -5〜-35 dBの傾きを60 dBに外挿する
  • スマホでもRT60は相対比較として実用的に測れる。絶対SPLは校正マイクが要るが、RT60の傾きは内蔵マイクでも出る
  • 録音ピークは -6〜-12 dBFS。クリップはRT60を壊す最大の原因
  • SNRは音量ではなくスイープの長さで稼ぐ
  • ブロードバンドの1値より、帯域別に割って低域の伸びを見るほうが部屋の実態に近い

よくある質問

RT60が部屋の体感と合いません。

ブロードバンドの1値だけ見ていると、低域だけ伸びている部屋を平均値が隠します。帯域別にRT60を見ると、たいてい低域がボワついています。オクターブごとに割って、どの帯域が長いかを確認してください。

どのくらいの長さのスイープが良いですか?

部屋と暗騒音によります。迷ったら長めから始めて、SNRが足りていれば短くしていくのが安全です。短くして値が暴れ始めたら、それが下限のサインです。

EDTやC50はRT60と何が違いますか?

EDTは減衰のごく初期 (0〜-10 dB) の傾きから出す残響時間で、聴感に近いとされます。C50は初期50msとそれ以降のエネルギー比で、明瞭度の指標。RT60が「どれだけ尾を引くか」なら、C50は「言葉が聞き取りやすいか」を見る数字です。

内蔵マイクの機種差は補正できますか?

校正ファイルがあればマイク特性を補正できますが、機種固有の内蔵マイク差の補正はまだ詰め切れていません。今のところは「同じ端末で測って比べる」前提を崩さないのが安全です。

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Sonirで測る

Sonirはスマホで音響測定と比較を完結させるアプリです。本記事のRT60測定も、スイープを流して録るだけでIRからRT60・EDT・C50・ウォーターフォールまで自動で算出します。基本計測は無料、帯域別の深掘りはPro。

iOS / Android、近日公開。詳しくは機能ページへ。